〜竜宮退魔伝〜3 作: ソード 日時: 2009/10/26 23:30 マジムンを倒し合流したあと、四人はジョーカーに連れられてURASIMA本社の眼前へと着ていた。 「意外に小さいのね?」 三階建ての小さなビルだった。全国の電力のうち四十パーセントを荷う企業にしては小さい。 「まぁ、見た目的にはそうでっしゃろな」 ジョーカーに連れられて四人は中に入る。すると、出迎えたのは白髪の女性だった。 「都築さんご一行ですね? お待ちしてました」 白髪のショートカットだが、耳が上手い具合に隠れるように部分的に長い。なかなかの美人で、ラフな空気を纏っている。だがだらけた感じはしない。 「社長の秘書、真雪零子です。よろしくね」 零子は微笑みながら握手を求めてきた。 「よろしくー♪」 握り返したのはアリスヴェールだった。何故か後ろからズイッと出てきて握手した。一番前にいたのが蒼真だったからなのかもしれない。 「じゃあ、社長室まで案内するわね。あ、それと、敬語は嫌いだから無しでお願い」 そう言うと、四人を誘導する。 「ほなボクは別の用事あるんでこの辺で。また何かあったら来ますわ」 ジョーカーは踵を返すと用事は済んだとばかりに出て行った。何処へ行ったのかは分からないが、彼はいつも何をやっているのか分からないのでまぁいいか、と思う四人だった。 そもそもジョーカーが何をしているかはそんなに考えなくていい。何故なら彼は必要な時は必ずいるのだから。 「ねぇねぇ零子?」 「なに? アリスヴェール」 早速アリスヴェールは紗雪を引き連れて零子に喋りかける。 「そのスーツはどこで買ったの?」 「これ? これはね――」 早速意気投合した二人は歩きながらも喋りだす。喋りながらもしっかりと目的地に向かっているのはある意味凄い。 すぐに社長室に着くと、零子が扉を明ける。 「社長、蒼真さん御一行連れてきましたよ」 「ありがとう」 机に座っていた細身で少し気弱そうな男性が出迎えた。スーツのセンスは結構良い。 「URASIMAコーポレーション、代表取締役の浦島です。今日は遠路はるばる良く来てくださいました」 社長が握手を求めてくる。蒼真は握り返すと、 「気にしないでください、これも仕事です」 と、応じた。 「いやはや、魔物を千体狩ったといわれる都築さんに、魔法使いの氷室さん。これほどの大物に依頼できるとは嬉しい限りですよ」 それに、と前置いて社長は続ける。 「アルテシオン財閥の娘さんまで来ていただけるとは」 アリスヴェールは、実は大きな財閥の会長の娘だ。それも、先祖がえりと呼ばれる特殊な能力を持つ人間である。 「紗雪さんは、氷室さんの弟子なのですか?」 「ん? あぁ、俺の相棒の紗雪だ」 「霧島紗雪です。よろしくお願いします」 「その若さで相棒と呼ばれるとは、これは頼もしい。よろしくお願いします。では、早速仕事の話をしたいので、椅子におかけください」 社長室の中央にあるソファー座るように促された四人は話を聞く為に座る。 「それで、仕事の依頼内容ですが」 「魔物狩り、だろう?」 蒼真の言葉にうなずきながら社長は答える。 「はい、我々はマジムンと呼んでいます」 「喋ったり術使ったりと、めんどくせえ奴らだったな」 刻哉が眠たげにぼやく。先ほど戦ったが、アレが沢山いたら厄介だ。 「もうマジムンと接触したのですか!?」 社長が思い切り驚いた。 「はい。私たちは鳥人間のようなマジムンでした」 「俺達が出会ったのは、豚から人型に変身するやつと、蛇だったな」 「あぁ、やはり……」 社長は頭を抱えてしまった。 「最近マジムンが進化している気がするのです。昔は凶暴な動物、程度だったのが、今では仰られた通り、知能をもち、力も上がってきているのです」 「進化?」 「はい」 「待て蒼真。その前にこの島の術体系を聞いておかないと厄介だぞ」 刻哉が制すると、社長はさらに驚いた。 「知らないでマジムンと戦ったのですか!?」 マジムンを倒したというのだから、てっきり知っているのかと思っていた社長だった。 「この島では普通の術や魔法は使えません。五行に応じた力の化身を使わなくては」 社長の説明が始まった。 なんでも、この島に来ると力の化身というものが使えるらしい。それは木火土金水の五行に応じた物で、相克や相生の関係を持つ。また、バランス型、攻撃力特化型、速度特化型、術特化型、防御特化型、何が起こるか分からない特殊型、の六種類に分けられるらしい。 この島でだけ使える特殊な力で、なんでも海の神様が関係しているとかいないとか。 「この島群の四方と中央に祠がありまして、その祠の中に何かが封印されている、とも聞きます」 それが力の正体ではないか、といわれているが、真偽は定かではないらしい。 「あなた方の力の化身がどういったものかはわかりません。あくまでも自分で使いこなせるようにしなくてはならないのです」 マニュアル的な術ではないようだ。 「マジムンが進化している、というのは?」 力の化身についての説明が終わると、蒼真が社長に問いかける。 「はい。マジムンも五行の力を使うようになってきたのです」 「昔は使えなかった、と?」 「術を使うようになってきたのはここ五年から十五年の間です。それまでは問題なく討伐できていました」 ただ、と前置いて社長は続ける。 「御伽噺ですが、昔のマジムンは今よりはるかに強力な力を持っていたと聞きます」 「どんな話ですか?」 「簡単に説明しますと――」 かつて妖怪の長がいた。その妖怪は、四凶と呼ばれる強力な妖怪と、自らの身体から生み出される化け物を使って日本を滅ぼそうとした。しかし、五大霊獣と、その力の適格者である五人の術者が四凶と長を封じ込めたという。そして、この浦島群島は封印と共に海に沈んだ。 「という話です。そして、マジムンはその妖怪の長から生まれているのではないか、と言われています」 「五大霊獣に妖怪の長、四凶。結構な有名どころだな」 五大霊獣とは、長の麒麟、そして白虎、青龍、朱雀、玄武の五体だ。それぞれ五行の力を司ると言う。 「妖怪の長、か。そんなもの封じられていたら、マジでこの島は危険だぞ?」 「刻哉、考えられる妖怪の長、というとどんなものだ?」 「そうだなぁ、有名どころではぬらりひょん、山ン本五郎左衛門、神野悪五郎、ってとこだけど」 ぬらりひょんは人間に大きな被害を出す妖怪ではないし、山ン本五郎左衛門や神野悪五郎は妖怪たちがあまり悪さをしないようにするための監督役だ。 「それで、私たちへの依頼っていうのは、マジムン退治?」 「はい。それと、マジムンの長についての調査もお願いします。島と我々の存亡に関わることです」 マジムンの長が実在していたら、相当まずいことになる。当然の要請だろう。 「分かりました、引き受けましょう」 「ま、そんなものが存在してたらやばいしな」 「私たちにまっかせなさい♪」 「まだ未熟者ですけど、頑張らせていただきます」 四人は当然のように引き受けた。その言葉を聞いた社長は安心したように笑んだ。 「それと、もう一つ依頼があるのですがよろしいですか?」 「「「「??」」」」 四人が頭に疑問符を上げる。まだ問題があるというのだろうか? 「お恥ずかしい話ですが、私どもが運営している海の家がとてもまずいことになっていまして……」 「「「は?」」」 「海の、家、ですか?」 思わず蒼真、刻哉、アリスヴェールの三人は言葉をなくし、紗雪だけが何とか反応できた。 「実は、宇宙ヤキソバと言う店ができたのですが、その店にほとんどの客をとられてしまって、うちは閑古鳥が鳴いている状態なのです」 「「「「宇宙ヤキソバ?」」」」 再び社長の説明が始まった。何でも、もの凄く豪華な具と、調理パフォーマンス、そして抜群の味付けを誇る日本語のやけに上手な外国人の店らしい。 「我々も正直困っていまして。このまま海の家を閉店するとそこで働いているもの達が路頭に迷う結果に……」 「待て、何故俺達が海の家に関係あるんだ?」 「……そういえば紗雪の名前知ってたな。もしかして知ってるのか?」 「はい、有名ですよ?」 「え、私ですか?」 紗雪は驚いたように自分を指差す。心当たりが無いわけではない。 実は、紗雪は昔天才料理少女としてよくテレビに出ていたのだ。その料理の腕前は、今も確実に上達している。 「料理の鉄人、霧島源五郎さんの娘さんなら、何か対抗策を見出せるのではないかと……」 料理の鉄人、霧島源五郎。大抵の日本人ならその名前を知っている。世界クラスの料理人として。 紗雪は少しだけ考える。自分の最も得意とするものは確かに料理なのだが、ここで依頼されるとは思わなかった。 しかし、逆に考えれば、一番足手まといになる可能性のある自分が、一番活躍できる、ということだ。 「分かりました。引き受けます」 「ありがとうございます」 「海の家、ということは値段はそんなに引き上げられませんから、私の方で指導させていただく、という形でいいですか?」 「はい、よろしくお願いします」 「私たちも手伝うわ。ね? 蒼真?」 「俺達もか?」 「蒼真だって料理上手じゃない。大丈夫よ♪」 「俺は裏方に回るぞー」 なんだかんだでアリスヴェール達もやる気になったようだ。 「相手の力量を計っておきたいので宇宙ヤキソバさんのヤキソバを食べたいのですが、いいですか?」 「はい、社員に買ってこさせましょう」 〜そして一時間後〜 「これが宇宙ヤキソバさんのメニューなんですね?」 目の前にあったのは、オムレツに包まれたヤキソバ、すなわちオムソバ。そして、カニの入ったカニソバ。海老の入ったエビソバ。そして、学食で定番のヤキソバパン、の四つだ。 「はい、全て注文してきました。ここにビールもつくそうですが、紗雪さんは未成年ですからね」 「では、試食します」 早速紗雪がカニ入りヤキソバを一口食べる。 「麺は普通、カニはタラバですね、よく使う気になりました。基本的に普通なのですが、調理が見事ですね。火の通し加減、味付け、全て抜群です。それに――」 「それに?」 「ソースが普通じゃないです。何を以ってすればこの味が出るのかわかりません。こんなに濃厚かつ他の具材を引き立ててくれるソースに仕上げる食材は私も知りません」 「ソース、ですか」 「ヤキソバで勝負するのは避けたほうがいいですね」 「紗雪さんでもこの味は難しい、と?」 「この味に勝つには、材料費がかかってしまいますので……既存の材料で勝つには搦め手で攻めるのがいいと思います」 さらに紗雪はヤキソバパン、エビソバ、オムソバも試食する。 「一種類のソースでこれだけのバリエーションを出すなんて……採算どうやって取ってるのかしら?」 元来ソースというものは、何十種類もの食材を煮込むことで完成する。食材を変える事により、様々なバリエーションを生み出し、尚且つ深く濃厚な味を生みだすのだ。 しかし、このヤキソバに使われているソースは、未知の食材を使用している。 「わー、美味しいー」 アリスヴェールが横で舌鼓を打っていた。 「紗雪、勝てるか? これかなりすげぇぞ? 海の家とかで出せるレベルじゃない」 「あぁ、これはおかしいな。どうやって採算を取ってるんだ?」 刻哉と蒼真も料理は嗜むが、これは疑問になる美味さだ。正直、難しい。 「そうですね、既存の食材で勝つとなると、やはり――」 「厳しい、ですか?」 「レシピはありますけど、海の家の料理担当の人達に作れるかどうか……」 そう、簡単に作れて、尚且つ美味しく、それでいて安い。それはかなり難しいのだ。 「成程……確かに紗雪さんの腕ならともかく、うちの料理担当が作らねばならない、となると……」 「一ヶ月もらえれば、習得させてみせます」 「あぁ、そうだな。どうせ長期滞在になりそうだし」 マジムンの調査、という大任務なら、時間がかかるだろう。なにせ、場合によっては日本、そして世界的な問題になりかねないのだ。 「では、よろしくお願いします。零子さん、海の家のスタッフを呼んでください」 「はーい」 「あ、良いですよ、私たちが向かいますから。実際の現場も見ておきたいですし」 そう言うと、紗雪は立ち上がる。いても立ってもいられない、そんな雰囲気を感じさせる。 「受けたからには必ず勝ちます。私の技術を全て用いてでも」 珍しく紗雪は燃えていた。自分の得意分野を惜しげもなく披露できる。これほど嬉しいことは無い。 そして、本当に珍しく、紗雪は話を聞き終わる前に出て行ってしまった。 「あいつ本気だな。しかたねぇ、俺も手伝うか」 「あ、わたしも行くー」 刻哉とアリスヴェールも紗雪を追って部屋の外に出て行った。 「私からの話は以上ですが、蒼真さんも向かいますか?」 「ん? あぁ、そうだな」 蒼真も立ち上がると、社長室を出ようとする。 「私は所用が多いのでいけませんが、よろしくお願いします」 「わかっています。依頼を受けた以上は、な」 そして、蒼真も部屋から出て行った。 「零子さん、彼らはどうでしたか?」 「私とは比べ物にならないほど強いわね。あんなに強い人達がいるなんて、世界は広いわ。それに」 「それに?」 「アリスヴェールと紗雪はお友達になれそうな気がしたわね〜」 社長はきょとん、とした表情になると、そのあとすぐ笑み、 「はは、そうですね」 と答えた。 「ここが調理場ですね?」 紗雪が海の家の調理場、及び食材などをチェックしていた。 「どうだ? 紗雪」 「そうですね、考えられるメニューは、おにぎり、サンドイッチやハンバーガー、ホットドッグなどの軽食、それと、やはり子供や女性に人気なデザート系をメインで攻めたいと思います」 「デザート系、ですか?」 店長らしき人物や、店員達が紗雪の話を聞いていた。そして、紗雪は立ち上がると全員を見回し、こう告げる。 「全員に私流の料理を叩き込みます。覚悟してくださいね」 その小さな体から発せられているとは思えないほどの凄まじい迫力が紗雪にあった。 「では、私の特製レインボーカキ氷をまずは披露したいと思います」 紗雪がシロップと氷を取り出す。シロップは六種類。そして練乳だ。 完成したカキ氷を見た店員たちはそれはもう驚いた。 「これは、単独で食べても美味しいが、少しずつ混ぜていくと味が変わっていく!?」 「シロップのかけ方を身体に叩き込んでください」 あっさりと言う紗雪だった。 紗雪の圧倒的な料理の腕前に、店員達は圧倒されていた。 かき氷意外に出来たシャーベットやアイスクリーム。そして、ハンバーガー、サンドイッチ、おにぎり、ホットドッグ。さらに、紗雪はラーメンとカレーも仕込んでいた。 その全てを、並行して作っていた。 「他にも作れますけど、全部料理法、時間、食材の量を身体に叩き込んでください。料理は理論と経験でなります」 「「「「はい!」」」」 「明日に関しては、私たちも手伝います。ですが、私たちは他にも仕事があるのでいつもいられる訳ではありません。貴方達が会得しなくてはならないことです」 「「「「はい!」」」」 「良いお返事です♪ では、頑張りましょう♪」 この時の紗雪の笑顔は、店員達に元気を渡すのに充分だった。 |